新奇性効果を考慮したA/Bテスト:より確かな意思決定のために

新奇性効果とは

新奇性効果(novelty effect)とは、新しい製品、サービス、または変更が導入された直後に、ユーザーの関心や行動が一時的に変化する現象を指します。この効果は、ユーザーの短期的な好奇心や興味によって引き起こされ、長期的な効果とは異なる可能性があります。 

この記事では、このユーザー心理による分析的影響について論じます。この心理効果のユーザー視点からの考察については、以下の記事をご参照ください。

また、効果検証手法に関する調査記事については、以下をご参照ください。

A/Bテストにおける新奇性効果の問題

プラシーボのような盲検化の難しいA/Bテスト(例えば、従来とは全く異なる画面デザイン)では、新奇性効果によってテストの検証結果の解釈を複雑にする可能性があります。

  1. 短期効果の過大評価:新しい機能や設計が導入直後に高いパフォーマンスを示しても、それが長期的に持続するとは限らない(例:別荘に段々と通わなくる)。
  2. 真の効果の隠蔽:新奇性効果が強すぎると、実際の改善や悪化を正確に評価できない可能性がある。
  3. ユーザー行動の一時性:新しい要素に対するユーザーの反応が、通常の使用パターンを反映していない可能性がある。

新奇性効果への対処法

新奇性効果への対処は全く複雑ではありませんが、検証作業の恣意性を排除するためにも、効果検証の設計段階からこの影響への対処を検討しておくことが大切です。具体的には、実行コストを考慮しながら、以下のようなアイディアを検討します。

十分な測定期間の確保

  • 検証期間を十分に長く設定し、新奇性効果が落ち着いた後のデータを収集する。
  • 検証指標の時系列推移をプロットし、効果の経時変化を観察する

サブグループ解析

  • 新規ユーザーと既存ユーザーの反応を別々に分析する
  • 使用頻度の異なるユーザーグループ間での比較を行う。 

経時変化の考慮

  • テスト開始直後のデータを除外した分析を行い、結果を比較する。
  • 週単位や月単位で結果を集計し、多角的にトレンドを観察する

反復テスト

  • 同じ変更を異なる時期に再テストし、結果の一貫性を確認するtemporala validation)。
  • 新奇性効果が薄れた後に再度テストを実施する。 

定性的フィードバック

  • 質的情報との統合やトライアンギュレーションを意識する
  • ユーザーインタビューやアンケートを通じて、反応理由や長期的な印象を調査する。

結果の解釈と報告

報告時には、分析者の考える最も妥当な検証結果に加え、幾つかのシナリオ別の検証結果も報告し、施策決定者が結果の不確実性を考慮した判断ができるにします 

POINT:結果の解釈と報告時の留意点

  1. 新奇性効果の可能性を常に考慮に入れ、短期効果と長期効果を区別し報告する。
  2. 結果解釈時に新奇性効果の仮定を明示的に示し、その影響を相手に認識させる。
  3. 複数の合理的シナリオが考えられる場合は、その全ての効果推定量を報告する。 

分析者と施策決定者の関係性構築の重要性

報告シナリオの多さを、分析者の自信の無さと捉える施策決定者もいますし、それを一つに絞ることが分析の役割だと疑わない(疑う準備ができていない)人もいます。

このような相手には、確実性の高い分析報告時に、分析者として推奨の結果解釈を明瞭に伝えつつも別シナリオがあることを伝え、複数シナリオの存在と分析者の自信は無関係であることをわからせることが大切です

そして、来たる不確実性の高い判断時に備え、複数の分析シナリオを見ておくことが施策決定者の未来の利益を守ることを伝えておくと良いでしょう。他者(ヒト)は自分の利益を守ることには興味を持ってくれます

まとめ

新奇性効果は、A/Bテストの結果解釈を複雑にする要素の一つです。この効果に対処するには、長期的な測定、サブグループ解析、経時変化の考慮など、複数のアプローチを組み合わせることが効果的です。これにより、より信頼性の高い結果解釈を得ることができます。

データ分析者は、新奇性効果の存在を認識し、適切な対処法を組み合わせ採用することで、より確実性の高い洞察を提供できる可能性が高まります。しかし、結果解釈が一意に定まるとは限りません。そのような場合、複数の分析シナリオを提示し結果の不確実性を明確に伝えることが大切です。

最終的には、施策決定者との間に、こうした不確実性を含む分析結果を適切に共有し、議論できる関係性を構築することが鍵となります。この関係性により、施策決定者は不確実性を考慮した上で、より適切な判断を下すことができるようになるでしょう。

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