はじめに
今回は私たちの「知識ネットワーク」から、「共同意思決定」についての解説内容を紹介します。この概念は、医師・患者関係論の文脈で登場する言葉ですが、分析者・意思決定者関係を論じるにあたって理解していて決して損のない概念だと思います。
医師・患者関係の進化と共同意思決定の誕生
共同意思決定とは、治療やケアに関する決定を医師と患者が協力して行うアプローチです。伝統的な医師主導の意思決定では、パターナリズムが問題となり、インフォームド・コンセントが導入されました。しかし、患者が一人で合理的な意思決定を行うのは難しく、限界がありました。
共同意思決定では、医師が専門知識と治療オプションを提供し、患者は自身の価値観や懸念を表明します。双方が最適な判断を模索するのです。たとえば、がん治療の選択において、医師と患者が治療法のメリット・デメリットを共有し、患者の人生観も考慮して決定するなどです。
対話と感情の重要性
共同意思決定では、対話を通じて患者の不安や葛藤に向き合うことが求められます。医師は専門知識だけでなく、患者の心理、状況、価値観を深く理解する必要があります。これらを軽視し、専門的知見のみを押し付けてしまうと、パターナリズムの罠に陥る危険性があります。
患者の心理や価値観を無視した一方的な意思決定は、患者の医療への不信感を招き、二度と医師のもとを訪れなくなるかもしれません。また、専門家には不要と思える追加の情報や検査を患者が要求する背景にも、患者なりの理由があるはずです。意思決定者の感情の働きは自然なものであり、専門家はそれを尊重しながら、対話を通じて理解を深めていくことが重要なのです。
ビジネス意思決定への応用
医師と患者の関係を、分析専門家と意思決定者に置き換えると、ビジネスにおける意思決定支援の新たな視点が見えてきます。意思決定者の不安や葛藤を経ることが、より良い決定につながるという視点です。
たとえば、新商品の販売戦略を決める際、データが示す厳しい現実に直面することで、経営者は一時的な不安を感じるかもしれません。しかし、その不安と向き合うことで、より現実的な戦略を立てられます。分析者は、たとえ意思決定者が期待するものと異なる事実でも、明確に提示する必要があります。
そんなことは当然だと思うかもしれません。しかし、分析者も意思決定者もバイアスを抱えた存在です。確証バイアスは、自分が信じたいことに注意を向かわせます。信念バイアスは、信じていることを疑わせないように働きます。また集団心理が働けば、面倒な情報は意思決定者から遠ざけられるようになるのです。
- 分析者は、データに基づいた情報を提供し、意思決定者のバイアスに抵抗すること
- 組織は、分析者が意思決定者を健全に不安や葛藤へと導ける環境を整備すること
- 意思決定者は、不安や葛藤を受け入れ、分析者との対話を通じた判断を目指すこと
結論
共同意思決定のエッセンスを考え方を取り入れることで、ビジネスにおける意思決定の質の向上が期待できます。特に、不安や葛藤を積極的に受け入れ、分析者と意思決定者が対話を重ねることが鍵となるでしょう。分析者の皆さんには、この記事を通じて、意思決定者との健全な関係構築の重要性を再認識していただければ幸いです。
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