認知バイアスの迷宮をナビゲート:ディシジョン科学への第一歩

はじめに

私たちの日常生活は、大小さまざまな判断に支えられていますが、これらの多くは、認知バイアスと呼ばれる無意識の心理的プロセスの影響を受けています。こうした影響を自覚することは、私たちの判断を改善するための第一歩となります。

この記事では、有名なバイアスからすこし珍しいものまで、さまざまな認知バイアスを探り、これらを学ぶことが、なぜ私たちにとって有益なのかを紹介します。

さまざまな認知バイアス

確証バイアス

ソーシャルメディアを閲覧していると、自分の意見に合致する記事には自然と引き寄せられる一方、反対の意見は無視しがちです。これは確証バイアスの一例で、私たちには自分の既成の信念(主観的に受け入れている知識や考え方)を正当化する情報を探し優先する心理的傾向があります。

このバイアスの克服には、すべての情報を公平に評価しようとする努力が必要ですが、この課題に取り組む人は決して多くありません。確証バイアスは、私たちの認知を無言で操るものであり、これを意識的に克服しようとする努力が、偏見のない意思決定のためには不可欠です。 

アンカリング・バイアス

200ドルだったものが100ドルになりました!」で始まる売り込み文句を聞くと、私たちは最初の数字に囚われ、ついお買い得に感じてしまう。このように、最初の情報に過度に思考が影響を受ける認知的傾向のことをアンカリング・バイアスと言います。

このバイアスに対抗するには、最初に提示された数値だけではなく、多様な視点からの情報を積極的に求める必要があります。たとえば「もし受け取る情報の順番が違ったら、自分の判断はどう変わるだろうか?」などと考えてみると良いでしょう。

カリギュラ効果

子供に対して「これに触れてはいけない」と言うと、逆に興味を引かせます。これはカリギュラ効果の典型で、私たちが生まれながらにして持っている、手に入らないものへの欲求を表しています。

この効果名は、1980年に米国で放映された映画「カリギュラ」に由来します。この映画の内容があまりに過激で放映の禁止が決まると、逆に大衆の興味を強めてしまったのでした。限定品の魅力であれ有名人のゴシップであれ、このバイアスを認識することで、自分の中の過剰な欲求を抑えることが可能になります。

逆に、もっと欲求を引き出したい(たとえば、読書量を増やしたい)なら、読書の最低目標時間を掲げるのではなくその上限を設けてみましょう。すると、その制約がもっと読みたいというあなたの欲求を掻き立てます。仕事ができる人ほど自分を忙しく保つ傾向がありますが、これは一つの仕事に投資できる時間上限を設けることで、やる気と創造性を生み出しているとも解釈できるのです。

信念バイアス

信念バイアスとは、結論がどれだけ妥当に感じられるかに基づき、結論に至った推論(プロセス)の妥当性を評価する心理的傾向のことです。たとえば好きな有名人が健康食品を推薦していると、私たちは彼らの説明をきちんと吟味することなく受け入れてしまうかもしれません。なぜなら、彼らの言葉・結論への猜疑心が低い状態では、批判的に彼らの説明(プロセス)を評価できないからです。

このバイアスに対抗するには「誰が」「何を」ではなく、「なぜ」「どのように」に焦点を当てると良いでしょう。またこのバイアスの最も厄介な敵は自分であることを自覚しましょう。なぜなら、あなたの信念はあなたが正しいと信じ込んでいる結論の集合体であり、あなたの猜疑心を最も低下させるものだからです。

ベン・フランクリン効果

苦手な人から頼みごとをされその頼みに応じた際、不思議と苦手な人への気持ちにポジティブな変化があった。そんな経験があれば、それはベン・フランクリン効果です。このバイアスは「自身の肯定的(否定的)な行動を、肯定的(否定的)な感情で正当化する」ように働きます。私たちの心は、自分の行動と矛盾した心の状態を解消したがります。

このバイアスで注目したい点は、他者の信念変容に応用できる点です。あなたからあなたの敵に相談を持ちかけると、かつての敵が友人に変わるかもしれません。あなたの相談に応じるうちに、相手があなたへ抱いていたネガティブな信念が書き換えられる可能性があるからです。この実践者こそが18世紀のアメリカの政治家で、アメリカ合衆国の父と称されるベンジャミン・フランクリンで、この効果の名前の由来となっています。

信念から見た認知バイアスの世界

私たちの信念は、現実世界をナビゲートする羅針盤のような役割を果たしますが、しばしばこれは、バイアスの影響下に置かれます。

  1. 確証バイアスと信念バイアスは、この羅針盤の既存設定を強化し、
  2. アンカリングは、私たちの初期方向を定め、
  3. カリギュラ効果は、私たちを禁じられた方向へと誘い、
  4. ベン・フランクリン効果は、他者の行動を介し、私たちの羅針盤を調整しかねません。

認知バイアスを無意識の迷宮に閉じ込めておくと、私たちの心は容易にそれによって操縦されてしまうでしょう。バイアスへの知識を持つ最大の意義は、私たちの判断や行動を自分の意識下に置くということです。

結論

認知バイアスへの知識は、より優れた判断を実現するためのスタート地点です。得た知識を日々の判断の改善に活かそうとする意識的努力が、知識活用の勘所を私たちに教えてくれるしょう。

明晰な思考を実現する旅は、短距離走ではなく、マラソンのようなものです。この旅を通し自分の心と向き合い、自分の置かれた外部世界についての公正な理解・認識を目指しましょう。特に、自己批判的な思考ができる人にとっては、この旅は非常に有意義なものとなるでしょう。

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