はじめに
探索マップシリーズの一般公開版をお届けします。探索マップとは、一見すると関連性の薄い概念同士の意外なつながりを可視化した思考の地図です。直感的な発想力と分析的思考を同時に育むツールとして設計されており、特にデータ分析や意思決定プロセスにおける新たな視点の獲得に効果を発揮します。
会員向けコンテンツでは各概念の詳細解説にリンクできる仕様となっていますが、この公開版では図そのものの持つ示唆性に焦点を当てています。シンプルながら深い洞察を促すこれらのマップに繰り返し触れることで、複雑なデータや現象に対する多角的な分析アプローチを発見できると考えています。
今回は、フランスのシャーロック・ホームズと呼ばれ、現在の科学捜査研究の礎を作った犯罪学者エドモン・ロカール博士の交換原則と認知バイアスの接続について取り上げます。
探索マップ
マップ解説
ロカールの交換原理と認知バイアスを結びつける概念的な経路について、以下のような接続が考えられる。
まず、物理的痕跡の解釈過程を介した接続が第一の経路となる。ロカールの交換原理は物理的な痕跡の必然的な存在を指摘するものだが、これらの痕跡の解釈には主観的要素が介在する。例えば、この解釈過程において、確証バイアスが作用する可能性が存在する。捜査官が特定の容疑者を想定した場合、その仮説を支持する痕跡の解釈を無意識的に優先してしまう傾向が生じる。
次に、期待効果を介した接続が第二の重要な経路となる。ロカールの交換原理は「痕跡が必ず存在する」という期待を生み出す。この期待が強すぎると、実際には意味のない痕跡を過度に重視したり、存在しない痕跡を「見出す」というリスクが生じる。これは偶然性の中にパターンを見出すクラスターの錯覚の一形態と見做せる。この錯覚は、無関係な事象間に意味のある関連性があると誤って認識してしまう傾向を指す。
次に、証拠の選択的注目を介した接続が第三の経路となる。物理的痕跡は常に複数存在するが、捜査官は自身の仮説に合致する痕跡に選択的に注目する傾向がある。これは選択的知覚と関連し、知覚の段階という早期から生じることが特徴である。このバイアスは、確証バイアスの一形態として、重要な反証的証拠を見落とすリスクを内包している。
最後に、因果関係の推論過程が、両者を結ぶ第四の経路となる。物理的痕跡の存在から、その痕跡が生じた状況や行為者を推論する際、前後即因果の誤謬などのリスクが生じる。これは、人間の因果推論に関する認知バイアスと密接な関連性を持つ。
以上のように、ロカールの交換原理は物理的な法則でありながら、その適用と解釈の過程で様々な認知バイアスと結びつく可能性を持つ。このような認識は、より客観的な科学的判断を行う上で重要な示唆を提供するものである。
参考書籍
探索マップに登場する用語の一部については、拙著『データ分析に必須の知識・考え方 ― 認知バイアス入門』(ソシム出版)でも解説しています。本書では、分析の全工程で発生するバイアスの背景や対処法を詳しく取り上げています。
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