問いの構造化:背景疑問、前景疑問、そしてPICOフレームワーク

背景疑問とは

背景疑問とは、調査や研究の背景に存在する広範な疑問(事実や背景知識を問うもの)のことです。この疑問は、基礎的な理解を深めるためのものであり、具体的な調査を始める前に必要となる情報を提供します。背景疑問は、研究の大枠を理解するための土台となり、その方向性を定める上で重要な役割を果たします。

EXAMPLE:背景疑問の例

  1. これは何だろう?:アンピシリンってどんな薬だろう?
  2. これはなぜだろう?:最近の夏が暑いのはなぜだろう?
  3. どんな手段があるか?:企業がサステナビリティを実現するための手段は何か?

前景疑問とは

前景疑問とは、課題解決のために「何をすべきか」や「何が役立つか」を問うものです。この疑問は研究の焦点を絞り込み、明確で具体的な質問に答えることを目的としています。前景疑問は、研究の成果から判断・行動を直接的に導くものであり、データを具体的なベネフィットへと変換するための手段としての役割を果たします。

EXAMPLE:前景疑問の例

  1. 何をすべきだろう?:暑すぎるから教室にクーラーを設置するべきではないか?
  2. 試す価値はあるか?:地中海式食事法を6ヶ月間実践することで、40-60歳の過体重患者の血圧はどの程度低下するか?

前景疑問の構造化

前景疑問をデータ分析に適した形で表現するには、背景疑問から得た知識を基に、PICOと呼ばれる「疑問の構造化フレームワーク」がよく使われますPICOは、調査や研究の焦点を絞り、具体的な質問を作り上げるための効果的なツールです。

PICOの要素

Population(対象集団)

研究の対象となる集団や個人の特性を定義します。年齢、性別、健康状態などが含まれます。

Intervention(介入)

研究で調査する特定の処置や介入方法を定義します。これには、新しい治療法や教育プログラムなどが含まれます。

Comparison(比較対象)

介入の効果を比較するための対照群や代替の介入を定義します。プラセボや従来の治療法などが該当します。

Outcome(結果)

研究の成果として期待される結果や効果を定義します。これには、改善の程度や副作用の有無などが含まれます。

PICOの例

以下の質問は、各種背景疑問(括弧内の疑問)で得た知識を土台に、PICOフレームワークで構造化された前景疑問の一例です。

質問:フレキシブルな教室配置は高校生の数学の成績に違いを生み出すか?
  1. Population:高校生(誰に対して重要なトピックか?)
  2. Intervention:フレキシブルな教室配置(どんな手段があるか?)
  3. Comparison:従来の教室配置(どんな比較に意味があるか?)
  4. Outcome:数学の成績の向上(何を成果とするのが妥当か?)

実際にPICOで質問を構造化する際には、各種背景疑問に対する十分な調査と一層の具体化が求められます。特に対象集団は、結果の一般化可能性や実施策との直接性に関わり、アウトカムの測定方法や測定期間も、分析結果の解釈時や他の分析結果との統合時に欠かせません。

    このように、背景疑問で得た知識を土台にPICOフレームワークを用いることで、前景疑問を明確かつ具体的に構造化することができます。

    データサイエンスとの関係性

    データサイエンスの世界では、記述的分析、予測的分析、処方的分析という言葉が知られています。記述的分析は、背景疑問に答えるための分析と理解できます。

    予測的分析は、PICOの定義に役立つ情報を提供してくれます。たとえばある種の広告への反応率が高いと予測される人に広告を表示するといった介入は、予測分析により得られる予測値によって可能になります。

    処方的分析は、推奨アルゴリズムや数理最適化手法などにより課題ごとの「何をすべきか?」、すなわち「前景疑問」への数理解を提供してくれます。

    参考:予測モデルとPICO予測モデルを設計する際、PICOの中のPopulationはとても重要です。モデルをどんな風に使いたいか?を想定し、それに見合った集団対象でモデルは構築され検証されるのが理想だからです。

    また近年、データサイエンティストへの要求が処方的分析へとシフトしていく中、因果推論への認知が広がっています。因果関係が理解できればビジネス上の打ち手を見出せる、因果関係の強さを測れれば無駄な活動を合理化できるといった期待がこの背景にあると思われますが、より重要なのは、背景疑問に対する十分な調査に根差し、よく構造化された前景疑問を構築する組織的能力と言えるでしょう

    Caution:因果推論の落とし穴因果推論は、理由を問う背景疑問だけでなく、試す価値を問う前景疑問にも対応できる優れた手法です。しかし、打ち手に結びつきにくい背景疑問の沼にハマる危険性もあります。たとえば、地球温暖化のメカニズムを深く追求するよりも、暑すぎることから推論できる害の解消と、打ち手のコストを天秤にかけた方が、普通の組織にとっては迅速に意味のある対策を講じることができるということです。

    まとめ

    前景疑問は、背景疑問の十分な積み上げの上に生み出すことができる貴重な疑問です。データ利活用の投資対効果が見合っていないかもしれないと感じている組織は、分析依頼者も分析者も共に、優れた前景疑問を生成できていない可能性があります。

    この可能性に陥っているかもしれないと感じたら、PICOフレームワークを使い、前景疑問を生成することに時間を割くように心掛けましょう。一旦、組織が大切にすべき疑問(十分に具体的に構造化された前景疑問)が生成できれば、分析者の技能向上にかけたコストを上回るリターンの獲得が期待できるようになるでしょう

    参照

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